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筋筋膜性疼痛症候群【MPS】

トリガーポイント鍼治療

痛みの根源は筋筋膜にある

図1

痛みやシビレは神経圧迫によるものなのか?

上図1.は肩から腕、臀部(お尻)から脚にかけて広がる痛みやシビレの広がりを表したものです。比較的よくあるパターンですが、このような痛みやシビレがある場合、医療機関などに受診すれば十中八九は神経からくる症状と診断されることになるでしょう。


そして原因は首の骨(頸椎)や腰の骨(腰椎)の異常として検査することになります。検査の結果は骨の間が狭くて神経を圧迫している(ヘルニアや加齢現象)と診断されるのが一般的です。しかし実際はレントゲンなどによる検査で関節の狭小化(狭くなっている)がみられても、痛みとシビレの原因ではないことが殆どなのです。


 

骨の変形による神経障害=痛み・シビレなのか?

写真1.

写真1.は腰痛と右脚に痛みがあり歩行困難の76歳女性のかたの腰部のレントゲン画像で、医療機関で撮影された写真を当院に持ってこられたものです。

 

医療機関では加齢現象により骨が変形し、神経を圧迫しているのが原因のため手術をしなければ歩けなくなると言われたそうです。

手術を受けたく無いので何とかならないものかと当院に来院されました。写真を見れば確かに椎間板もすり減り関節の間もほとんどなく、骨棘(骨のトゲ)や腰の骨も歪んでいます。

もしこの様な変形が痛みの原因だとしたら、手技療法で治ることはありません。よく腰痛の原因は骨の歪みが原因だと耳にしますが、この様な加齢にともなった歪みを治すことはできません。また高齢の方のレントゲン写真を撮れば多かれ少なかれ写真1.のように変形しているものです。

では痛みは治らないのでしょうか?

先ほども言ったように骨の変形や関節の狭小化(関節の間が狭まる)は治りません。しかし、この写真の女性はその後、日常生活にも支障ないほどに改善されました。なぜ骨の変形が治せないのに改善されるのか?それは骨の変形や神経障害が原因では無いからです。

この症例の様に回復するのは特殊な症例ではないのです。皆さん(医療関係の方も含めて)が常識の様に捉えている骨の歪みや変形が痛みの原因という事は実際は痛みやシビレの原因では無いことの方が多いのです。

一般的な考え方では神経が圧迫されれば痛みやシビレを発症すると思われていますが、本当の神経圧迫はかならず麻痺症状(腰部レベルなら膀胱直腸障害)を呈します。このことは痛みの生理学では常識とされているのす。

それでは骨の変形などによる神経障害ではなかったとしたら一体なにが原因で痛みやシビレが出るのでしょうか?
その答えは筋肉や筋膜に隠されています。それを筋筋膜性疼痛症候群といわれるものなのです。

 

 

筋筋膜性疼症候群(MPS)

MPS(myofascial pain syndrome)訳すと筋筋膜性疼痛症候群(きんきんまくせいとうつうしょうこうぐん)
と言います。簡単に説明すれば筋肉と筋膜の異常により色々な症状が出る疾患ということです。
 

この筋筋膜性疼痛症候群は米国の医師Janet G.TravellとDavid G.Simonsにより1983年に刊行されたトリガーポイント・マニュアルで医学書として初めて紹介されました。

ケネディ大統領とMPS

米国のケネディ元大統領は診断で椎間板ヘルニアと診断され手術をするも回復せず、続いて脊椎固定術の手術を受けるもさらに症状は悪化しました。その後Janet G.Travellにより筋筋膜性疼痛症候群と診断され筋筋膜性疼痛に対する治療を受けるとみるみる改善されました。

もしこの時、ケネディ大統領が筋筋膜性疼痛症候群の診断を受けていなかったら、神経圧迫の症状とされ再度手術を受けていたかもしれません。結果はもちろん症状をますます悪化させていた確率が高かった事でしょう。
 

このケネディ大統領のエピソードは今からすれば時代も古く現代医療では、この様な誤診は無いのでは?とお考えになると思いますが、実際は今も昔も変わっていないのが現状です。ではなぜ変わっていないのでしょうか?

今も昔もかわらない診断学?

なぜ今も昔もかわらないのか、それは痛みやシビレは骨などの変形や破壊などによる神経症状(圧迫など)が原因であるという考えが変わっていないからです。従って筋筋膜性疼痛という捉え方は一般医療では診断もしないのが一般的なのです。

手術をしても良くならない、再発した、また痛みやシビレがあるにも関わらず画像診断で原因がわからないという事が非常に多いのです。これらは神経症状ではなく筋筋膜性疼痛症候群が原因であるからです。

では筋筋膜性疼痛症候群の原因は何なのでしょうか?

 

痛みの原因トリガーポイント

トリガーポイントという名称は少し前までは、勉強されたかた意外は殆ど知られていない名称でした。最近は筋膜などがメディアなどで紹介されはじめ、筋膜と関連あるトリガーポイント(痛みの引き金)という名称は聞いたことがある方も増えているようです。

しかし、痛みやシビレの原因が神経症状と捉える方が多く筋膜性疼痛症候群の原因であるトリガーポイントは本当の意味で認知はされていないのが現状です。

図2.

トリガーポイント

図2.で示された赤色の部分は、筋筋膜性疼痛症候群によるお尻から脚にかけて広がる痛みやシビレを表したものです。

この様な症状は医療機関に行けば脊柱管狭窄症やヘルニアなどからくる坐骨神経痛と診断されます。また検査に異常がなければ原因がわからない、単に坐骨神経痛と言われることが殆どです。

しかし、図Aの症状はそれらの神経障害などが原因ではないのです。左お尻の外側部分にある✖印の部分のところ、そこにあるトリガーポイントが原因なのです。

トリガーポイントはどのようにして発生するのか?
筋繊維の微小損傷によるトリガーの発生

人の筋繊維は繰り返しの動作や筋肉の持続的な緊張や急激な運動、日常生活の動作などのストレスにより微小損傷します。微小損傷を受けた筋繊維は収縮して筋肉痛の症状が現れますが、通常は数日で回復します。

しかし回復するまでの間にさらなる過負荷やストレス、または過剰なマッサージなどが悪影響を及ぼし筋収縮を持続させてしまう事があるのです。この状態が続くと、やがて筋肉は拘縮状態(筋肉が固まる)となり痛みが治らない状態となってしまいます。

この様な筋拘縮により固められた状態を筋硬結または索状硬結と言います。問題のある筋肉の中にはこの硬結が存在し、押すことにより痛みを発します。これを圧痛点とよびます。

圧痛点の中には押すと飛び上がるほどの痛みを発すると同時に痛みが他の場所へと広がるものがあります。それをトリガーポイントと呼びます。押すと飛び上がるような痛みをジャンプサインといい、広がる痛みを関連痛といいます。

人の体にはトリガーポイントは複数存在しますが、普段は痛みを発生しない潜在性トリガーポイントと痛みを今現在、発している活動性トリガーポイントがあります。

過去にケガなどをした場所や治った痛みが再び痛みだすのは潜在性のトリガーポイントとして残っていたものが、再び活性化し活動性トリガーポイントへと移行するために起こるのです。

筋膜の伸縮性の低下によるトリガーの発生

筋肉表面を拡大すると筋肉全体を包み込むメッシュ状の筋膜が見て取れる。さらに拡大すれば網目状になったコラーゲン線維とエラスチンが確認できる。

筋膜とは筋肉だけでなく内臓や骨などすべてを覆い、全身をつないでいる膜の事であり第二の骨格とも言われています。筋肉も筋原線維を筋膜により何層にも包み込み筋肉の形となっています。筋膜がなければ筋肉も形を成すことはできないのです。

ここでは簡単に筋膜について説明しますが、筋膜は二つのたんぱく質、コラーゲンとエラスチンが網目状に規則正しく絡み合う形状で伸縮性があり水分質に満たされています。このことで筋肉も滑らかな運動ができるのです。

しかし筋膜はケガ・炎症・過度の使用・不良姿勢などのストレスにより網目構造が不規則に変化(ヨジレやシワなど)し水分質も失われ伸縮性が失われます。そして筋膜に包まれた筋肉も運動性が低下するため硬くなりトリガーポイントが発生します。

また伸縮性を失った筋膜は全身に繋がっているため、次の筋膜へと影響をあたえます。洋服のセイターなどの端を指で摘み引っ張れば、引っ張ったところを起点にしわができる状態を思い浮かべて頂ければ、何となくわかると思います。この様に筋膜が引っ張られる事で他の場所への筋筋膜にも影響が及びトリガーポイントも発生し痛みが広がるのです。

筋肉と筋膜は表裏一体

この様にトリガーポイントの発生原因として筋繊維の微細損傷と筋膜伸縮性の変化をあげましたが、実際は筋繊維と筋膜は表裏一体の関係であり、筋繊維の損傷が有れば筋膜にも影響を与え、筋膜に変化があれば筋肉自体の運動性に影響を及ぼすのです。また関連痛による痛みの広がりも筋膜の繋がり(筋膜経線)の領域と一致することが多いのです。


このように筋繊維と筋膜はどちらかに異常がれば、他方にも必ずといってよいほど影響をあたえます。トリガーポイント治療するには圧痛ポイントだけでなく、その関連領域の筋肉・筋膜を考慮した治療が再発や早期改善には必要なのです

画像所見や血液検査ではわからない(触診の重要性)

トリガーポイントはレントゲンや血液検査により診つけることはできません。また一般的な医療機関では痛みやシビレ感を筋筋膜系の異常として捉える事もなく、おそらく触診(触って診る)をすることも無いでしょう。トリガーポイントを理解されている医師・治療者であれば、かならず触診をする筈です。

触診により確認できること
  • 硬結 硬いシコリは米粒大の小さい物から親指ほどの大きさまで確認できる。
  • 索状硬結 ロープ状のシコリが確認できる。索状硬結内に過敏なスポットを見つけることができる。
  • ジャンプサイン 硬結部分を押圧する飛び上がるような痛み感じる
  • 痛みの再現性(関連痛) 硬結部を押すことで関連痛領域に痛みが広がる

上記の事はトリガーポイントの特徴的なもので触って(触診)みなければ絶対にわかりません。しかし医療機関での検査の現状では触診は軽視され、中には全く患部に触らないことも珍しいことではないのです。

痛みやシビレの症状は神経の障害であるという固定観念が特に整形外科などには強く根付いているため、触診という従来もっとも基本とされている検査法をされないことが多いのです。

そしてレントゲンや高額な医療機器(CTやMRI)の画像診断が中心となっています。しかし痛みの原因の大多数は神経の異常や骨の歪みではなく軟部組織の筋肉や結合組織からなる筋膜にあるのです。

筋肉や筋膜の異常は大きな破損等がない限り画像所見に写し出されることはありません。その結果、画像所見で原因が特定できなければ投薬などの対症療法やヘルニアや狭窄部位がみつかれば手術ということになります。

手術による治療は皆さんが思われているほど成績は良くなく、再発率も高いのです。そして手術前より症状が悪化する事もまれではないのです。それは原因が神経の障害ではなくトリガーポイントなどからくる筋筋膜が原因の筋筋膜性疼痛症候群だからです。

トリガーポイントの広がりと種類
図3

上図3.の上半身の図の✖印は棘上筋に発生したトリガーポイント、下半身の図の✖印は小殿筋に発生したトリガーポイントです。そしてこれらのトリガーポイントの痛みの広がりを表した図になります。✖印で記したものは主要トリガーポイント(キートリガーポイント・責任トリガーポイントとも言う)と呼び最初に形成されるトリガーポイントになります。


主要トリガーは痛みの主要な原因であり関連痛(赤色で塗られた部分)を引き起こします。この関連痛の領域または主要トリガーと同じ筋肉、あるいは協力筋に二次的に発生するトリガーポイントを随伴性トリガーポイント(サテライトトリガーポイント)と呼びます。


もうひとつのトリガーポイントが付着部トリガーポイント(付属トリガーポイントともいう)で筋肉が腱に代わる部分や骨に付着する部分に発生するものです。付着部トリガーポイントは随伴性トリガーポイントによる筋緊張が関節付近にストレスをあたえ発生すると考えられています。


慢性的な関節付近の痛みは随伴性トリガーポイントが関節付近にストレスあたえることで付着部トリガーポイントが発生し、それが慢性の痛みの原因となっている場合が多いのです。

この様な症状は関節付近の痛みの治療の前に随伴性トリガーポイントを治療しなければ関節痛は再発を繰り返し慢性症状となる事が多いのです。


主要トリガーポイント➡関連痛➡随伴性トリガーポイント➡付着部トリガーポイント


 

痛みがある部分に原因があるとは限らない

図4.

痛みがあると、痛みのある場所に原因があるだろうと考えがちです。腰が痛ければ、腰の部分をマッサージや電気治療するこが多いのではないでしょうか?そして中には治療を続けていても

治療が終わった直後は痛みが和らいだように感じるが、すぐに痛みが戻ってしまう。

長いあいだ治療を受けているにも関わらず痛みが一向に良くならない。
 

この様な症状で他院から転院されて来られる方がよくいらっしゃいます。

なぜ改善されなかったのか?

それは痛みの原因が痛む場所には無く、他の場所に痛みの原因があるからです。図4.を見てもらうと痛みのある場所(赤塗りの部分)は腰部から背部にあります。

普通に考えると痛みの原因は腰か背中にありそうに思えますが、実は痛みの原因は腰や背中では無く、腹部に原因がある事があるのです。

✖印は腹部にある腸腰筋に発生したトリガーポイントで、ここが痛みの根本原因となり腰痛を引き起こしているのです。この様に筋膜性疼痛の原因であるトリガーポイントは痛む部分ではなく離れた所にあることも多いのです。この様な遠隔にあるトリガーポイントは筋膜性疼痛症の知識のない治療家は見逃してしまうことが良くあるのです。

トリガーポイントに対する針治療

図5.

図の様な症状を針治療する場合、第一に考えるのはどこが主要トリガーポイントであるかを探し出すことが重要になります。この図5.であれば✖印がある小殿筋という筋肉に主要トリガーポイントがあるので第一の標的は✖印となります。


主要トリガーポイントは最初に発生する痛みの元でありここを治療すれば、それに伴った随伴性トリガーの症状も沈静することもあります。また随伴性のトリガーポイントを治療し主要トリガーポイントを見逃せば症状は改善しずらくなります。

しかし実際の治療で主要トリガーを治療しただけで痛みがすべて改善されることは稀です。また慢性的な広範囲に及ぶ痛みなどは主要トリガーポイントも判別しずらく、主要トリガーポイントも一つの筋肉ではなく複数の筋肉にある場合もあるのです。


特に図5.のように広がった痛みは臀部から脚にかけて広範囲の筋筋膜の緊張があるためトリガーポイントだけを標的にしても、臀部から脚全体の環境をもどさなければトリガーは再発し易く、主要トリガー・随伴性トリガーそして全体的な筋筋膜の緊張をリリースする治療が必要となります。

筋膜連鎖からみたトリガーポイント

筋膜経線

筋膜経線のひとつ後方ライン

先程の図5.を見ると左の上殿部に発生したトリガーポイントが無秩序に広がっているかの様にみえますが、これは筋膜の緊張が筋膜連鎖により広がった結果と捉えることができます。では筋膜連鎖とはどの様なことなのでしょうか?


筋膜は何々筋の様な個別に存在するものではなく、全てが繋がりあっています。そして一つの筋肉が収縮すれば、その力を筋膜が次の筋肉へと連動させます。この様に数珠つなぎの様に連鎖することを筋膜連鎖といいます。

 

 

身体の動作がスムーズに行えるのは、この筋膜の繋がりによる力の伝達があるからなのです。この連鎖は前方に身体を曲げるとき、伸ばすとき、回転させるときなどにより連動する経路は異なる複数の経路からなり、それを筋膜経線と言います。経路は運動方向により一つの経線または複数の経線が関わっています。

痛みの連鎖

この様な痛みの広がりは、左の臀部の異常収縮や筋膜の伸縮性の低下により脚の筋膜が引っ張られておきる筋膜連鎖による症状が主な原因となっていると当院では考えます。このことで脚の筋膜が緊張し、包まれている筋肉も緊張します。その結果、不随性トリガーポイントが発生するのです。

ここでは臀部から脚にかけての痛みの連鎖を主に説明していますが、この様な症状が長引けば痛みは背中や首などあらゆる場所に広がる可能性があります。

なぜなら筋膜は全身を包み込み、すべてが連動しているからです。

 

根本治療の考え

ここでは定型的なトリガーポイントの関連痛や痛みの広がりついて説明しました。しかし実際の臨床ではたとえ同じような痛みやシビレがあったとしても必ずしも同じ場所に主要トリガーポイントがあるとは限らないのです。

また同じ筋筋膜にトリガーポイントがあったとしてもトリガーポイントの位置が少し違えば関連痛などの痛みやシビレのパターンも違ったものになります。長期に渡った広範囲の痛みは主要トリガーポイントの場所も確定しずらく、主要トリガーポイントも一つの筋肉では無く複数に及ぶこともあります。

 

トリガーポイントが発生する多くの原因は筋肉の持続的緊張・損傷や筋膜繊維の伸張性の低下・水分質の低下などが要因となります。ですから筋肉の緊張や筋膜の異常が先にあり、その後二次的にトリガーポイントが発生するということです。

ですから治療ではトリガーポイントだけを標的に治療しても、根本的な改善にはならないことが多いのです。もちろんトリガーポイントを治療することも大切ですが、トリガーポイントは二次的に発生したものです。一番重要なのは筋肉・筋膜の全体的な環境を整えトリガーポイントが発生しないような環境に整えることが根本治療のカギとなるのです。

 

参考文献 トリガーポイント・マニュアル(Janet G.Travell David G.Simons)   アナトミー・トレイン(ThomasW.Myers)  トリガーポイントブロックで腰痛は治る(加茂 淳 著)

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